※登場人物は全て仮名です。
深夜2時。布団の中でスマホをスクロールしていた私の目に、またもや「ふわとろ毛布」のハッシュタグが流れてきた。
もう何百回目だろう。インスタでもTikTokでもTwitterでも、みんな口を揃えて「人生変わった」「もう手放せない」「彼氏より大事」とか言ってる。
「そんな大げさな...」
でも、気になる。すごく気になる。
私は検索窓に「ふわとろ毛布」と打ち込んだ。出てくる出てくる。楽天、Amazon、Yahoo!ショッピング。値段は2,000円台から10,000円超えまでピンキリ。
「どれが本物なんだよ...」
結局、一番レビューが多くて安い3,480円のやつをカートに入れた。送料無料。翌日配送。完璧じゃん。
ポチッ。
翌日、仕事から帰ると玄関に段ボールが置いてあった。
「きたきた!」
開封。ふわっとした触り心地。確かに普通の毛布よりは気持ちいい。
その夜、さっそく使ってみた。温かい。肌触りもそこそこいい。
「なるほどね、これは流行るわ」
SNSに写真をアップ。「ついに私も #ふわとろ毛布 デビュー🎉」
いいねが20くらいついた。満足。
でも、なんだろう。心のどこかに引っかかるものがあった。
「みんなが言ってる『人生変わった』って、これのこと...?」
まあいいか。十分暖かいし。
それから1ヶ月。
洗濯を繰り返すうちに、毛布の様子がおかしくなってきた。
最初のふわふわ感はどこへやら。なんだかゴワゴワしてきた。毛玉もポツポツ出てきた。静電気でバチバチ言い始めた。
「こんなもん...なのかな?」
でも、もう3,480円払っちゃったし。買い直すのもなあ。
私は自分に言い聞かせた。「普通の毛布よりは全然いいし。これで十分」
そう、十分だった。人生が変わるほどじゃないけど、悪くはない。
そんな微妙な幸せに甘んじていたある日。
会社の先輩の家に遊びに行くことになった。
先輩は一人暮らしで、インテリアにこだわるタイプ。部屋に入った瞬間、「おしゃれ...」と声が漏れた。
夜遅くまでワインを飲んで、そのまま泊まることに。
「寒いから、これ使って」
先輩が差し出したのは、シックなグレーの毛布だった。
触った瞬間、時が止まった。
「え...?」
これは何? 何なのこれ?
まるで雲を触ってるみたい。いや、子猫の群れ? 赤ちゃんのほっぺ? 表現が追いつかない。
とにかく、柔らかい。そしてとろける。本当にとろける。
体にかけた瞬間、じんわりと温かさが広がってきた。包まれてる感じ。守られてる感じ。
「これ、どこの毛布ですか...?」
「ああ、ふわとろ毛布の正規品。ちょっと高かったけどね」
「正規品...?」
「うん。私も最初は安いの買ったんだけど、全然違うって聞いて買い直したの」
雷に打たれた気分だった。
その夜、眠れなかった。
いや、眠れなかったというより、眠るのがもったいなかった。
ずっと毛布に顔をうずめていた。スリスリした。頬擦りした。完全に変質者だった。
「これが...これが本物か...」
私が1ヶ月使ってきたあれは、何だったんだ。
フリースの親戚? 分厚い布?
とにかく、次元が違った。別の生き物だった。
朝、先輩に「その毛布どこで買えますか!?」と詰め寄る私は、完全に目が血走っていたと思う。
家に帰って、自分の毛布を見た。
触った。
「...ただの布じゃん」
今まで「まあまあいい」と思っていた自分が信じられなかった。
これで満足してSNSに投稿までしていた自分が恥ずかしくて、過去の投稿を速攻で削除した。
同時に気づいた。
SNSで「人生変わった」って言ってた人たち、みんな正規品使ってたんだ。
私が見ていた世界と、彼らが見ていた世界は、違った。
給料日を待って、正規品を購入した。
8,900円。私の中では高級品だった。でも、迷わなかった。
届いたその日の夜。
布団に入って、体に毛布をかけた瞬間。
「あ...帰ってきた」
そう思った。ここが私の居場所だ、と。
温かさが違う。肌触りが違う。何より、この安心感。
布団から出られなくなった。5度寝した。会社に遅刻しそうになった。
でも、後悔はなかった。
それから3ヶ月。
私は立派なふわとろ毛布中毒者になった。
帰宅したら速攻で着替えて毛布に包まる。休日は12時間くらい毛布と一体化してる。友達に「最近会わないけど大丈夫?」とLINEが来るレベル。
でも、幸せだ。
先日、後輩が「ふわとろ毛布買おうと思うんですけど、どれがいいですか?」と聞いてきた。
私は真顔で答えた。
「絶対に正規品を買いなさい。類似品に手を出したら、私みたいに人生の1ヶ月を無駄にすることになるわよ」
後輩は「先輩、目が怖いです」と言ったけど、これは愛だ。
本物を知った者の、使命感だ。
今、私は布団の中でこれを書いている。もちろん、ふわとろ毛布に包まれながら。
これを読んでるあなたも、もし「ふわとろ毛布買おうかな」って思ってるなら、ケチらないで正規品を買ってください。